Cooperative thalamocortical circuit mechanism for sensory prediction errors | Nature (2024)
Shohei Furutachi Alexis D. Franklin, Thomas D. Mrsic-Flogel, Sonja B. Hofer
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07851-w
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動物は外界の内部モデル(Internal model)を保有しており、常に外界からの感覚入力の予測をしている。この予測と実際の感覚入力が異なっていた場合、この予測誤差(Prediction Errors)が内部モデルを更新し、その環境のより良いモデルが獲得される。(Predictive Processing; PP)
この予測誤差(Prediction Errors)は神経回路レベルでどのように形成されるのか?
お腹をすかせたマウスに奥で報酬がもらえるVR空間の廊下を走ってもらう
廊下の壁面の縞模様パターンをマウスに学習してもらい、これを変えた時の予測誤差(Prediction Errors)を調べる。
最初の縞模様パターンはA - B - A - B
学習後は10%の確率でA - B - A - C(予測できない)、90%でA - B - A - B(予測できる)
最後にA - B - A - Cのみにして、このパターンも学習してもらう
この実験中にマウスの一次視覚野(Primary Visual Cortex; V1)のlayer 2/3で二光子カルシウムイメージング(Ca²⁺ imaging)
視覚刺激時に有意に応答が見られた細胞のみに注目すると、
予測できないCの視覚刺激に対しては強い細胞集団の平均応答が見られた。
この大きな予測誤差(Prediction Errors)応答を引き起こしていた新規刺激が、繰り返しによって以前の刺激に対するAmplitudeと同程度になっている(Fig1-d)
これが反復抑制(Repetition suppression; RS)で説明されない理由として、この刺激が与えられる間隔が長いことを上げている(450秒程度)
Naa_tsure.icon刺激間が7-8分も空いてるのに学習(適応?)できているのが面白い
この応答は予測と実際の入力の差分を表しているのか?
Naa_tsure.icon定式化されている予測符号化(Predictive Coding:PC)理論における予測誤差は、(実際の感覚入力) - (予測の感覚入力)で計算されるがこれと対応するのか?
疑問1:予測が異なるとき、同じ新規刺激に対して異なる応答をするのか
A - B - A - Bの通常刺激パターンを、A - C - A - B, A - B - C - Bと変更して実験
B → Cの変更とA → Cの変更による"予測誤差"は同じなのか?
Naa_tsure.iconA(右斜め斜線), B(縦線), C(左斜め斜線)縞模様なので、BとAでは形成されている予測が異なるはず
Naa_tsure.iconもし、この予測誤差が予測の違いを反映しているならば、B → Cの変更とA → Cの変更による応答は異なるはず
単一神経細胞レベルでこれらの間に差は見られなかった。
この"予測誤差信号"には予測の違いが反映されていない。
疑問2:予測が同じとき、異なる新規刺激に対して異なる応答をするのか
A - B - A - Bの通常刺激パターンを、A - B - A - C, A - B - A - Dと変更して実験
B → Cの変更とB → Dの変更による"予測誤差"は同じなのか?
Naa_tsure.iconどちらの条件も形成されている予測は同一のはず。
Naa_tsure.iconもしこの"予測誤差"が実際の感覚入力の違いを反映しているならば、B → Cの変更とB → Dの変更による応答は異なるはず
単一神経細胞レベルでは、各細胞はどちらかの間隔刺激に選択性があった
この"予測誤差信号"には実際の感覚入力の違いが反映されている。
新規刺激Cに対して予測誤差信号を出す細胞に注目すると、刺激Cが予測可能であっても(弱いが)応答をしていた。
"予測誤差信号"はその感覚刺激に選択性を持つ細胞によって出される。
いわゆるnegative prediction error; nPEに対応する細胞もいたが少なかった
観察された予測誤差シグナルは、刺激に対して選択性を持つ細胞がその刺激のうち予測していなかった刺激に対する応答性を強めていることによると考えられる。
Naa_tsure.icon予測符号化における予測誤差とは異なる
Naa_tsure.iconもしかしたらより高次元な空間で表現されている?
Naa_tsure.icondeviance detectionとか注意(attention)とかそっちに似ているように思える
この予測誤差シグナルはどのような回路によって形成されるのか?
トップダウン(Top-Down)による脱抑制(Disinhibition)を想定
Vasoactive intestinal peptide (VIP) positive interneuronsが活性化され、間接的にSomatostatin (SST) positive interneuronsが抑制されることで、錐体細胞(Pyramidal cell)が脱抑制される
VIP介在神経は
予測できない刺激に強く応答し、予測できる刺激にはあまり応答しなかった
刺激パターンに対する選択性は錐体細胞(Pyramidal cell)より弱かった
Naa_tsure.icon一方で、Top-down input modulates visual context processing through an interneuron-specific circuit | Cell Reports (2023)を見るとVIP介在神経には予測可能になるにつれて応答を強めるものがいるらしい。
Naa_tsure.iconResposiveな細胞を抽出する段階で見逃されている?
VIPの応答を抑制した状態でLayer 2/3の神経細胞をイメージングすると、Unexpectedの状態における応答が抑えられた。
Naa_tsure.icon思ったより変わらないなという印象。他のメカニズムも大事そう
Naa_tsure.iconfig3-f, rightのところ、expectedの状態でもVIPのサイレンシングが錐体細胞の応答に効いてる?
このVIPの活動はどの細胞により駆動されるのか?
視床(thalamus)の高次領域である視床枕(Pulvinar)からの入力を調べた
視床枕(Pulvinar)のAxonal imagingをV1で行うと、
錐体細胞と同様に予測できない刺激に対して強い応答を示した
刺激パターンに対する選択性は錐体細胞と比べると小さい
視床枕(Pulvinar)の抑制をすると
Layer 2/3の神経細胞の予測できない刺激に対する応答が弱まった
これはVIPを抑制した結果と類似しているので以下のシナリオが考えられる
視床枕(Pulvinar)→(興奮性)Vasoactive intestinal peptide (VIP) positive interneurons→(抑制性)Somatostatin (SST) positive interneurons→(抑制性)錐体細胞(Pyramidal cell)
このシナリオを検証するために各コンポーネントを興奮させて、Layer 2/3の神経細胞の応答を記録した
視床枕(Pulvinar)(軸索)を興奮させると、Layer 2/3の神経応答が弱まった
影響を受けたVIPは少なく、VIPの予測誤差応答が抑えられた
Naa_tsure.iconこの時点で当初のシナリオとは異なるメカニズムが必要
VIPを興奮させてもLayer 2/3の神経応答に有意な影響はなかった
視床枕(Pulvinar)(軸索)とVIPを同時に興奮させると、Layer 2/3の神経応答が強まった
この影響は使用した視覚刺激に高い選択性を持つ細胞で顕著だった
これは予測誤差シグナルを出していた細胞の特徴と一致
Naa_tsure.icon複数の要素が同時に働くことでsynergisticに応答を強めている
Naa_tsure.icon錐体細胞の樹状突起統合(Dendritic integration)の影響(というか同時性検出(Coincidence Detection))に思えてならない
視床枕(Pulvinar)(軸索)を興奮させ、Somatostatin (SST) positive interneuronsを抑制するとLayer 2/3の神経応答が強まった
この影響も使用した視覚刺激に高い選択性を持つ細胞で顕著だった
こちらも予測誤差シグナルを出していた細胞の特徴と一致
視床枕(Pulvinar)(軸索)を興奮させ、Somatostatin (SST) positive interneuronsの応答を記録すると、一部のSSTのみが興奮した
視床枕からの影響を受けたSSTは予測できない刺激に対して抑制性応答を示し、それ以外のSSTは興奮性応答を示した
視床枕からの入力とVIPからの抑制は独立的に予測誤差の形成に効いてる?
まとめると、
今回の実験における”予測誤差”は、刺激に対して選択性を持つ細胞が、その刺激を予測していなかった場合に刺激に対する応答性を強めていることによる
この予測誤差の形成にはVIP-SSTの脱抑制回路と視床枕からの入力が関与
視床枕はSSTの一部を介してV1 Layer 2/3の活動を抑える
VIPはSSTを抑制することで錐体細胞の脱抑制を行う
視床枕とVIPの同時活動で視床枕の興奮性入力が錐体細胞に入るようになる
Naa_tsure.icon予測できない刺激のはずなのに、Top-downによるゲーティングメカニズムで説明されるのは違和感
例えば、基本的に予測できない刺激に対する応答は基底樹状突起(basal dendrite)が脱抑制されてbottom-upによって駆動されるとか
予測できる刺激に対する応答は基底樹状突起(basal dendrite)が抑制されて尖端樹状突起(Apical dendrite)におけるtop-downによって駆動されるとかならわかる
from Learning enhances the relative impact of top-down processing in the visual cortex | Nature Neuroscience (2015)
Naa_tsure.icon今回の実験系における予測は空間情報が必要とされるので、視床枕の情報は海馬(hippocampus)/Retrosplenial cortex; RSCなどから情報を運んでいる?
使用するTaskによってLayer 1に入ってくるトップダウン(Top-Down)信号が変わるはずで、その違いに耐えうるようにどのようにV1が構成されているのか?
Layer 2/3の樹状突起統合も面白そう
A synaptic learning rule for exploiting nonlinear dendritic computation | Neuron (2021)もLayer 2/3の錐体細胞を使っている
Naa_tsure.icon脱抑制回路に関して、Disinhibition by VIP interneurons is orthogonal to cross-modal attentional modulation in primary visual cortex | Neuron (2024)との関連は?
Naa_tsure.icon皮質の応答を考える上で皮質視床ループ(thalamo-cortical loop)の重要性は今後どんどん注目されそう
How deep is the brain? The shallow brain hypothesis | nature review neuroscience (2023)
Naa_tsure.icon視床枕(Pulvinar)から一次視覚野(Primary Visual Cortex; V1)への入力のことをfeedforwardと書いてるけど、それはどちらかというとfeedbackじゃない?
dorsal Lateral Geniculate Nucleus; dLGNからの経路がfeedforwardなイメージ
例えば、Towards a Unified View on Pathways and Functions of Neural Recurrent Processing | TINS (2019)
関連:NeuroRadio
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